2013-07-19から1日間の記事一覧

水鬼

水鬼 岡本綺堂 子どもの時からあまり上手でもなかったが、年を取ってからいよいよ下手になったとみえて、小一時間も糸をおろしていたが一向に釣れない。すこし飽きて来て、もう浮木の方へは眼もくれず、足もとに乱れて咲いている草の花などをながめているう…

崔書生

崔書生 田中貢太郎 崔は長安の永楽里という処に住んでいた。博陵の生れで渭南に別荘を持っていた。貞元年中のこと、清明の時分、渭南の別荘へ帰って往ったが、ある日、昭応という処まで往くと陽が暮れてしまった。 崔と女と貴婦人の三人が酒を飲んでいた。と…

睡蓮

睡蓮 横光利一 もう十四年も前のことである。家を建てるとき大工が土地をどこにしようかと相談に来た。特別どこが好きとも思いあたらなかったから、恰好(かっこう)なところを二三探して見てほしいと私は答えた。二三日してから大工がまた来て、下北沢(し…

最近の感想

最近の感想 種田山頭火 現時の俳壇に対して望ましい事は多々あるが、最も望ましい事の一つは理解ある俳論の出現である。かつて島村抱月氏は情理をつくした批評ということを説かれた。それとおなじ意味に於て、私は『情理をつくした俳論』を要望する。 合して…

歳々是好年

歳々是好年 宮本百合子 新年というものについて抱く私たちの心持も、その年々によって様々ですし、一人のひとの生活の其々の時代によっても又おのずから、異った感想をもつものだということを、近頃感じて居ります。 お正月という言葉で新年が考えられていた…